夏の来訪者
あれは数年前の夏。
我が家に来訪者が…。
それは黒くて光沢を帯びた……
ご○ぶ○である。
(Gと呼ぼう)
新築してから幾ばくも経たない我が家になぜGが!?
どうやら近所の取り壊し中の家から避難してきた模様。
私は女子(!?)なのでもちろんGは苦手。
G出現の際には夫召還。
夫は殺虫剤でもなくハエ叩きの類いでもなく、Gをタオルで仕留めるのだ。
野球仕込みの動体視力と瞬発力で天井近くの壁にいるGを狙う。
タオルを鞭のようにしならせ俊敏にGに当て、そして同じ早さで引く。
殺虫剤を吹き掛け、パニックになって暴れるGは制御不能行先不明で実に恐ろしい。
こちらに向かって飛んでくることさえある。
その点、タオルは一発で落ちて既にひっくり返り、手も足も出ない状態。
とどめにもう一発食らわせれば、確実にあちらに逝く。
私には夫の持つタオルがヌンチャクに見える。
どうか技を繰り出す際には
『ほあたぁー!!』
と言って欲しいし、仕留めた際にはポーズも決めて欲しい。
ひそかな願い。
しかし一度、夫がいない時にGが現れた。
家には当時まだ二歳になったばかりの息子と私だけ。
Gを見つけ固まる二人。
『どうする?』
おずおずと息子に問う。
どこかへ走り去る息子。
(逃げたか…。しかたない。1人でなんとか戦ってみよう…。)
そう思っていると、殺虫剤を手にした息子登場!!
『やるちかねぇ!!!』(やるしかない)
その表情と言葉から息子の決意が感じられる。
ほろり。
今まさに息子がGに立ち向かおうとしている。
漢や。あんた漢や。
そんな三文芝居を繰り広げている間にGは逃走した。
少し安堵する二人。
息子の成長とたくましさを感じた出来事だった。
なるべくならGに出くわしたくないが、できることならあの技を夫から息子に継承してあげてほしい。
ほあたぁー!!!